"ルポ貧困大国アメリカ"

数日前に、堤未果"ルポ貧困大国アメリカ"(岩波新書,2008)を読了。207頁,難易度:中。

読みながら、背筋が凍るようだった。本書に書いてあることが、たとえ一部分でも事実であれば(そしてきっと大半が事実なのだろうけれど)、本当に本当に恐ろしい話。本書の強みは、筆者が実際にアメリカで直接インタビューした具体的な人々の生活の実態が多数紹介されていることである。現実が迫ってくる説得力。

要は、新自由主義がいかにアメリカの国民を貧困に陥れているか、という実態のルポなのだけど、アメリカのあとを追いかけて新自由主義の道を突き進む日本に住む私たちにとっては、全く他人事ではない。

現在の日本の社会情勢にも大きな影響を及ぼしている(といわれている)"サブプライムローン"がいかに"貧困ビジネス"のひとつであるか、ということについて述べているプロローグの終わりで、こう書かれている。

「教育」「いのち」「暮らし」という、国民に責任を負うべき政府の主要業務が「民営化」され、市場の論理で回されるようになった時、はたしてそれは「国家」と呼べるのか?(p.10)

この疑問は、まさしく自分も大学院時代から抱えていて、"教育""医療""社会福祉"だけは最低限国家が公的な責任(税金)で保障するべき領域である、と考えているので、大きくうなづいてしまった。

話は少し変わって、ハリケーンカトリーナの報道で被災者の様子をテレビで見ていて、控えめに言って恰幅がよい、率直に言ってかなり肥満傾向の人々ばかりが映っていたことを覚えているだろうか?その理由はなんだと思いますか?

第1章"貧困が生み出す肥満国民"では、貧困家庭は"できるだけ調理器具も調味料もいらない""少ない予算でお腹いっぱいになる"食べものを選択せざるをえないため、どうしてもジャンクフード中心の食生活になってしまい、そのために肥満になり不健康になる実態が描かれている。これは家庭だけでなく、貧困児童の栄養を保障すべき学校給食すらも、政府の予算削減のなかでジャンクフードを中心にせざるをえないという、すさまじい現状。わが国では、さすがにまだ公立学校の給食でファーストフードが提供されることはありえないだろう(と信じたい)。

ちなみに2006年度時点で、約6000万人のアメリカ国民が1日7ドル以下(700円程度)の収入で暮らしているとのこと(p.30)。なお貧困と肥満や生活習慣病との関係については、20090218のエントリに書いた岩田正美"現代の貧困−ワーキングプア/ホームレス/生活保護"(ちくま新書,2007)でも触れられていた。

第2章"民営化による国内難民と自由化による経済難民"では、ハリケーンカトリーナがいかに"人災"だったかについて述べられている。公的機関や、学校が"民営化"され"自由競争"になると、何が起こるかということ。第3章"一度の病気で貧困層に転落する人々"では、保険会社主役の医療保険制度と、たった一度の入院、子の病気、出産などで破産してしまう"普通の人々"が紹介されている。アメリカの民間医療保険については、院生時代に学んだことがあったけれど、まさか急性虫垂炎でたった1日入院しただけで、1万2000ドル(約120万円)も自己負担しなくてはならない現状とは全く知らなかった。

日本は一応国民皆保険制度ではあるけれど、20080918のエントリに書いた湯浅誠"反貧困−「すべり台社会」からの脱出"(岩波新書,2008)や岩田正美先生の前掲書でも述べられているとおり、日本の社会保障制度はあまりに保険主義であり、その対象は"健康で働いているヒト"が前提となっている。そのため、病気が貧困層に転落する大きな理由になっていることは、岩田先生をはじめ多くの指摘があるとおりである。

ここまででも十分に背筋が凍る内容なのだけど、私が勉強不足で全く知らず、度肝を抜かれたのが第4章と第5章である。かなり長文になってしまったので、続きはまた明日か明後日に書くことにする。

ルポ 貧困大国アメリカ (岩波新書)

ルポ 貧困大国アメリカ (岩波新書)