"入門 医療経済学−「いのち」と効率の両立を求めて−"

真野俊樹"入門 医療経済学−「いのち」と効率の両立を求めて−"(中公新書,2006)を読了。現在の指導教授に"第一次分配と第二次分配の勉強をしたいのですが"と話したら、薦められたのが本書。新書だけど移動時間中に読める内容ではなかったので、腰を据えてやっと読了。

おそらく著者が書きたかったのは第6章"医療のプレーヤーとその行動−医療経済学の視点による分析"で、そこまではそれを書くための説明みたいな印象。当然、読んでいて一番面白かったのも第6章。

本書を読んで、"第一次分配=市場による分配、第二次分配=社会保障による分配"と理解したのだけど、配分と分配の違い。

社会政策には、1どのような財・サービスをどれだけ生産するかという資源配分問題と、2生産された財・サービスを人びとの間にどのように分配するかという分配問題の二つがあり、前者は効率という観点から、後者は、公平という別の視点が重要な要素になる(p.18;原文では数字は丸数字)

では社会保障とは何か?
第6章の"社会保障のあり方"という節において、本書では社会保障の性格として次の6つをあげている。

  1. 普遍主義の性格
  2. 生活保障の性格
  3. (社会保障給付からの受益について)私的な性格が強まっている
  4. 所得再分配の性格
  5. (費用負担面について)受給者と費用負担者がオーバーラップする度合いが増大
  6. 労働力の確保に寄与

多分上記の3番目の性格がもっとも議論を呼ぶポイントなので、引用しておく。

第三に、社会保障給付からの受益について見ると、私的な性格が強まってきている。ここでいう私的とは、行った政策の便益が個々の受益者に帰属することを意味し、経済学でいう私的財と同義である。普遍主義の公的年金や医療保障からの受益は、その大部分が受給者やその家族に帰属すると見てよい。福祉サービスも、全体として見ると、やはり私的財の性格が強いといえよう。
なお、サービスそれ自体は私的財の性格が強いものであっても、救貧の考え方に基づく給付については公共財の要素が認められる。(pp.213-214)

上記は経済学の定義による"私的財"についてだけれど、これが一般社会上の"私的"というコトバと混乱させられて様々まな議論が展開されているのではないだろうか。

ドイツなど外国の例では保険と税による所得再分配ははっきりと分けられている。しかし日本の医療保険では税と保険料が混合されており、あいまいになっている。この混合の幣として、一つには負担と給付の流れが不透明になっていること、もう一つには制度がその場しのぎのつぎはぎとなってしまっていることが指摘される。(p.215)

医療保険だけではなく、介護保険も同様の指摘が可能。何にせよ、日本の制度は複雑すぎる…。

書名に"入門"と冠されている通り、第1章では"合理的経済人""市場の失敗""公共財/私的財"等々の基本概念が説明されていて、経済学の復習もできた。経済学は社会科学の領域では"科学"として認知されている学問領域でもあり、意見を異なる相手と議論する場合に経済学ベースで意見を述べることができると非常な強みになる。勉強しよっと。