神野直彦"人間回復の経済学"

ふと思いついて、神野直彦"人間回復の経済学"(2002,岩波新書)を再読している。まだ再読を始めたばかりなのだけど、数年前に読んだときよりも共感する箇所が多くなっていて、うんうんと思い切りうなづいている。

スタインモは、スウェーデンを観察すると、高付加価値の知識集約型産業に特化しているため、租税負担率は高くとも、企業がフライトしない。なぜなら、知識集約型産業では人間の知的能力そのものを必要とするため、優秀な人材が集住しているスウェーデンから、企業はフライトすることはないからだ、という。
(同書,p.iii:スタインモとは"政治経済学の世界的権威であるコロラド大学のスタインモ教授"のこと)

スウェーデンも資源が少ない国だから、人的資源の育成=教育を重視してきた長い歴史がある。保育園から大学院まで無償なのは有名だけど、2002年に留学したときに驚いたのは留学生の費用も無料だったことだ。従って、私もGöteborg Universityには一切授業料を支払っていない。それどころか留学生ではないスウェーデン人の大学院生には、研究費(?)が支給されて生活保障されていたので、非常に吃驚した記憶がある。

話は少し変わるけど、先週末に"追跡AtoZ"というNHK番組の"日の丸半導体 製造業は生き残れるか"という特集を相方氏と一緒に見ていて、半導体エンジニアである相方氏が何に不安を感じているのかが遅まきながらようやく理解できた。"産業のコメ"である半導体関係の民間企業で働く相方氏と、社会福祉法人に勤務する私の両方が自分たちの業界の現状と将来に大きな不安をもっている、ということが今の日本の閉塞状況を端的に象徴している。…というよりも、民間企業と市場経済がここまでの状況に陥っているときに、社会福祉制度や社会保障制度全体がこんな有様では、とても安心して生活できるわけがない。

人間の夢と希望を行動基準にし、人間の社会をより人間らしい方向へと、社会のハンドルを切っても、社会は機能する。悲しみや苦しみを分かちあい、やさしさを与えあっても、モラルハザードなどはたらかない。その例としてスウェーデンをあげているのである。
(同書,p.iii)

本書が書かれたのは私が留学していたのと同じ2002年で、その後スウェーデン社会も少し状況は変わってきていることは伝わってくる。製造業が打撃を受けているのは同様で、SAABやVOLVOでも大規模なリストラが実行されているようだし。ひとつには、その"今"のスウェーデンの状況を実際に見て、感じに行きたいと強く願っている。3歳児の母としてはなかなか実現は難しいのが悲しいところだけれど。

もうひとつは、日本社会が現状の閉塞状況を抜けるためには、何が必要なのかということ。私は、やはり"人間を大切にする社会"への転換、本書に書かれている"経済のための人間"から"人間のための経済"への転換がひとつの選択肢ではないか、願わくばその方向へ進んで欲しいと切望しているのだ。

人間回復の経済学 (岩波新書)

人間回復の経済学 (岩波新書)