多床室の良さと弊害

入院していた病室は6人部屋で、介護保険制度的に言えば多床室である。産科の病室で妊婦ばかりだったこともあり、情報交換も出来たし、少なくとも日中は多床室の良さもあった。特にベッド上安静で寝たきりの間は見える光景はいつも同じだし、家族が面会に来てくれない限り、同室者や助産師さんたちと話すこと、同室者同士の会話を聞くことだけが他者との接触になるため、個室であったらとてもつまらなく孤独な時間だっただろうなと思う。また個室だと、助産師さんや看護師さんや医師たちは自分のためだけに来るけれど、多床室だと他の同室者のためにも病室に来るので、そのときに声をかけたりかけられたりすることができる。

しかしこれらの多床室の良さが感じられるのはあくまで日中だけであり、夜間は全てが反転し弊害になる。隣のベッドとの距離は、わずか数10cmであり、仕切るものは薄いカーテンのみ。常に他人の気配を感じながら眠りにつかなくてはならない。また一晩中床頭台の電気をつけておくヒト、毎晩のように寝言で悲鳴をあげるヒト、携帯の電源を切らずに寝るヒトなど、色々なヒトとの文字通りの共同生活なので、とてもとても安眠などできない。寝るときだけは、個室がいいなあと何度思ったことか。

まだ自分は"退院"があることを知っており、こうして自宅に帰れたから、何とか耐えられた。でも事実上、終の棲家になることの多い高齢者福祉施設や療養型病床群の多床室に生活しているお年寄りの気持ちは、どれほどの想いだろう。現在のお年寄りは大家族制で大部屋生活に慣れているといっても、家族と他人は全く違う。やはり日中は他者との接触ができる空間で過ごし、夜間は個室で過ごすというのが、高齢者福祉施設のあるべき姿なのだろうなとつくづく痛感した。余談になるけど、実際にお年寄りから聞いた話では、二人室の気遣いよりもは、四人室の方が気が楽らしいが、それも十二分に理解できる。

他に入院中にずっと思っていたのは、トイレについてだ。いや、汚い話題で恐縮だけど、毎日のことなので、生活において本当に重要なことなのだ。私の入院していた病院は、かなり歴史があるために清潔ではあるけれど建物設備は古く、トイレも産婦人科病棟に1箇所の共同トイレしかない。洋式便座に誰が座っていたのだろう?なんて考えてしまっては絶対にだめで、産科はともかく婦人科の入院患者さんは年齢層も様々で病状も様々なので、トイレもひどい状況になっていることもある。どれほど自宅のトイレを恋しく思ったことか、せめて病室にトイレが欲しいと思ったことか。

ということで、もし将来的に自分が入居型施設の設計企画に参加できた場合には、断固として個室トイレ付きを提案しようと決意した次第。