安田浩一"外国人研修生殺人事件"

数ヶ月前に安田浩一"外国人研修生殺人事件"(七つ森書館,2007)を読了した。この本は二部構成になっていて、前半が2006年に木更津市の養豚場で起こった中国からの外国人研修生が起こした殺人事件の背景について。そして後半が"外国人研修制度の闇"について、それぞれ筆者がご自分の足で歩かれたルポルタージュがまとめられている。

読みながら感じていたことは、日本という国は"労働"とか"働くこと"、そして"働く人"をどれだけ軽視しているのか?という大きな疑問だ。外国人研修制度の抱える問題は、決して特殊なことではなく、ワーキングプアの問題や、さらにはごく普通の会社勤めで残業が定着化している長時間労働の問題と根っこは同じではないだろうか?

一方、新聞各紙でも報道されているように、今月7日からはインドネシアとの経済連携協定(EPA)にもとづいて、現地で看護師の資格を持つインドネシア国籍の200人が来日したとのこと。看護師候補者は3年、介護福祉士候補者は4年間、滞在ができる仕組みで、その間に国家試験に受かれば、3年ごとの更新ができ、長期滞在が可能になるらしい。

だけどたった半年の研修期間で、看護や介護の実務に必要な日本語がマスターできるのだろうか?また、3年間の実務経験が必要な介護福祉士の国家試験を4年間の滞在期間中で合格できるヒトがどれだけいるのだろうか?

さらには、インドネシアやフィリピンで、"看護師"資格をもっているのはある種のエリートなのだ(インドネシアからの対象は、"大卒もしくは3年間の高等教育機関の修了者"と報道されている)。しかもインドネシアには介護福祉士資格はないから、今回の第一陣は全員"看護師"資格者。だけどきっと日本の看護や介護の現場では、その専門性は貶められ、おそらくサブ的な業務につかされると容易に予測できる。

この制度が、看護や介護業界で深刻な状況に陥っている人手不足解消のための安易な発想であることは、想像に全くかたくないと思うのだけど、公式には厚生労働省は一切これを認めていない。"人手不足だから受け入れるのではなく、労働市場の開放を求めるインドネシア側の要求に応じた特例的扱いで、EPAで受入れを盛り込んだことに対応した措置"なのだそうだ。

この建前も含めて、今回の看護・介護業界の外国人労働者の受け入れ制度は、外国人研修制度の仕組みに非常に似ているように感じてしまうのは、うがちすぎる見方なのだろうか?